「―――――は? 今、何っていった?」

 

 

今夜は飲み会だといきなりやってきた大王から誘われた。彼からの突然の来訪は珍しくないが、明日は仕事があるし、即答で断るつもりだった。・・・・・・その一言を聞くまでは。

 

「え? 『まーた、つれないなぁ。鬼男くんは』?」

「その前!!」

「前・・・? ああ!!」

 

眉に皺を寄せて考え込んだ閻魔は、合点がいったというように答えた。

 

「『ばっしょさん家でやるんだけど』?」

「・・・・・」

「ふぅ〜〜ん?」

「その顔ヤメロ」

 

ニヤニヤとからかいを含んだ顔が俺の顔を覗き込んでくる。腹が立ったので自分のリーチを最大限に利用して突き放した。

 

「いい痛い痛い!!鬼男くん、顔はそんなに回らないから!!」

「だったらその顔近付けてくんなっ」
「にしてもね〜 ふーん。そっかぁ。」

「〜〜〜〜っ やっぱり行くの止め・・・」
「え〜、ばっしょさんがもう乗り気なん「行きます。」ら仕方ない…って、早っ!!」



オレが言ったときは…などと後ろでブツブツ文句が聞こえるが、絶対に振り返らない。今にも笑い出しそうに弾んだ声だ。まともに返したら返り討ちにあうだろう。

この人に口で勝ったためしがない。
からかいを含んだ声色からそう判断して、芭蕉さんの名前に反応してしまった気恥ずかしさに気づかない振りをした。

いや、もう本人以外には筒抜けみたいなもんだけどさ。
振り返ろうとしない俺にかまわず、大王は口を開いた。

「ふふふ、純情少年にアドバイスしてあげようか?」
「なっ…」
「芭蕉さんをものにできるチャンスがあると言ったらどうする?オニオくん」


ニヤリと笑う顔は心底楽しそうだ。
動揺して墓穴を掘ってしまった俺は、やり場のない感情を持て余してプルプルと肩を震わせた。


「しっかし、相手がばっしょさんだったら大変だよねー」
「だっ誰も…別に俺は、」
「曽良と妹子」
「………」
「鬼男くん、だから分かりやすいんだって」


苦笑しながら差し出された手鏡にはこれ以上ないくらいに眉を寄せた目つきの悪い自分の顔が映っていた。

こんなに凶悪な人間、初めて見たわ。絶対何人か手にかけてる!!
憎き好敵手の名前に反応してしまったが、今度は隠さなかった。


「その2人、今日は残業があるからくるのが遅くなるんだって」
「何で知ってんだよ」
「酒屋の情報網を甘く見てもらったら困るなぁ。まぁとにかく」


頑張るなら、今日じゃない?

「―――」

ブブブ、と携帯のバイブがなったのは同時で、見れば彼の人からのメッセージ。

『おつまみ作るの、手伝ってくれない?時間は――』

ライバル不在、芭蕉さんからのお誘い、いつもは絶対ないであろうおいしいシチュエーション。これは。


にやけてしまう口元を手で覆ったが、下がる目尻までは止められない。
状況を察した大王は「男なら押し倒せ」との言葉を残して帰って行った。



予定まで後1時間あったが、いても立ってもいられず家を飛び出したのは言うまでもない。





頑張ろうとした鬼男に、果たして春は来たのか?

それはまた、別のおはなし。

 

 

 

 

 

オニオンかんがれー