びどいよ。そういって叫ぶ声も今更で、私が素直に受け取れるはずも無いのに飽きることなく差出してくる手をどうすればいいというの。
馬鹿だし、しつこいし、ヘタレだし、考えても、どう考えても良いところも、あの人に勝るところも無いのに。
嗚呼。少し気遣うだけで見せてくる泣き笑いの表情だとか、情けないくせに存外に大きな節くれだった手のひらだとか。
不意に見せてくるそれに私がどんな気持ちでいるのかなんてあんたは知りもしないんでしょう。

「痛っ―――」
「動かないで」

階段から落ちそうになった私をかばい、芭蕉が代わりに怪我をした。
あまりに唐突で、驚いて。助けられたことに対する気恥ずかしさもあって、お礼を言うこともできずに鈍くさいだの、馬鹿だの、散々な物言いをした。
申し訳なくて、いたたまれなくてそのまま逃げ出したかったけれど、埃を払う手にしたたる鮮血を見つけ、夢中で彼を保健室まで引っ張っきた。
助けてやった恩もなく罵倒してくるような人間の言うことなど聞かなければいいのに、素直に傷の手当てをさせてくれる。
ばかじゃないの。自然と包帯を巻く手に力が入った。相当痛いだろうに、今度は、何も言わなかった。言葉代わりに、手当ての必要が無かった片腕が私を抱きこむ。

「なによ」
「なんだろう」


すっとぼけた声に、また心にも無いことを言いそうになった。