男だらけの×××




ある日、ある全寮制の学園の一室で、生徒が言った。
「何か面白い遊びはないだろうか」
その場にいたうちの一人は答えた。
「こんな遊びはどうだろう」


かくしてゲームは始った。






「あの、さ」
あまりにもその手が震えていたので、芭蕉は遠慮がちに声をかけた。そんなにつらいならば止めてしまえばいいのだ。たかだか仲間内で行われたお遊び。その一環で行われようとしているこの行為は、本来ならば互いに想う人と2人きりですべきであり、けしてこんなに周囲から突き刺さらんばかりの視線を浴びつつするのもではない。断じて。
「止めよう?そんなに顔しかめつつすることじゃないよ」
そう言って芭蕉の肩をつかんだまま少しも動こうとしない男の、眉間のしわをとん、と叩く。
とたんにビクリ、と反応しますます体が固くなってしまったことに、失敗した、とこっそり嘆息する。もちろん相手には聞こえないようにだ。ただでさえ緊張からか、これからしなくてはならないソレに対する嫌悪なのか、芭蕉の前に立ってから少しも口を開こうとしない彼に、追い打ちをかけるほど酷い人間ではないので。自分の日頃受けている仕打ちを思うと、少しだけしてやろうかという気になるが。
「まだですかー?」
「いい加減にしてくれよー。次が待ってんだからさぁ」
「あいつ、案外奥手なんだなぁ」
「いや、違うよ太子。ああいうのはヘタレ、というんだ」
「ドSのヘタレって聞いたことねェよ。だからお前、いまだにど――――」
「ぎゃー!!それはだめ!!いろんな意味でそれ言ったらダメ!!」
外野のヤジを黙って聞いていた芭蕉だが、とてつもなく大きな地雷が踏まれそうになったので慌てて回収する。火の粉がかかるのは間違いなく自分であるからだ。
「鬼男くーん!あまり曽良くんを刺激しないでよ!!」
「へーい」
投げやりの返事の後、ぼそりと呟いた。
「いつまで肩つかんでんだ、あの野郎」
その言葉の届かなかった芭蕉は、再び曽良に向き直る。早くしてよ、そう言いたいのをぐっとこらえて待つ。
初めての子には、やさしく。をモットーとしていますので。




毒を吐いた鬼男はいまだに眉間を寄せたままだ。
「うわっ、鬼男くん機嫌悪っ!!」
「むかつくもんはむかつくんで」
「それは同感だ」
うんうん、と頷き合う後輩組。本当は今すぐにでも目の前の二人を引きはがしたい、という気持ちがそれはもうふつふつと。両手が自由な状態だったら、間違いなくそうしているところだ。
「まぁまぁ」
後ろから暴れる後輩を羽交い絞めにしている先輩Aこと太子は無駄だと知りつつ、なだめの言葉を述べてみる。次があるさ、と。
トップバッターである曽良のカードの内容を見た瞬間に断固阻止!!を訴えた二人を何とか止めるための措置としての拘束だが、口にも何かはめればよかったか、などと物騒なことを考えてみる。
自分だって、抑えてるのだ。
「いやなら眼ぇつむってればいいじゃん。嫌なのに見たいって、鬼男くんてばマゾ―?」
鬼男を抑える先輩Bも、そろそろ限界のようだ。日頃面倒事は避けて通る彼は、自分から好戦的な物言いをすることなどない。
「んだと、この変態イカ野郎!!」
「刺激してどうするんだい。みな面白くない気持ちは分かるんだ。こんなところで争っていても仕方がないだろう?」
再び暴れられては叶わない、という竹中の言葉に全員が押し黙る。冷静かつ淡々とした態度は、少しだけ場の空気を緩ませた。
「ま、始めたばっかりだ。こんなこともあるということで」
「こんなことも、でいきなりちゅーか!!ふざけんな」
「おま、どこにそんな力が」
「落ち着けイナフ」

やいのやいの。外野が騒がしくなってきたな、と思った。先ほどまでの痛い視線はどこへ行ったのか。皆何やら顔を突き合わせて話している。こちらのことはまるで忘れてしまったかのように。この状況はまたとない好機だ。ここにきて、視線の呪縛に解き放たれた曽良がついに動いた。
やるなら、今しかない。
肩にかけていた手をするり、と芭蕉の後頭へと伸ばす。おや、という顔をした芭蕉に口を開く間を与えず、一気に距離を縮めた。



「終わりました」
今までの無駄な時間(いや、一人の人間が大人の階段を昇るには少々短いくらいだったかもしれない)がうそのようにケロリとした顔で曽良は告げた。遅い!だとか、うらやましい!とかいろいろ思うところはあるけれど、そんなものは水に流そう。次のターンが始まったのだ。次は自分があの位置に!!
先ほどの出来事はきっぱりさっぱり無かったことにして(この後人目を盗んだ消毒が数回行われたとかなんとか)それぞれの妄想にふける男がそこにいた。




「skip、uno。はい、私のたーんで、」
「は、え、そんなのありですか!?」
「説明書はちゃあんと見とかないと、ね」
はい、あがり。にっこりと告げる芭蕉に、がくり、とうなだれる妹子。しかし心の中ではチャンス到来のガッツポーズ。まさか、敗者が引く罰ゲームカードに、あんな素敵ミッションが隠されていようとは。
罰ゲーム宣言をした閻魔には「どうせセーラーだろ、ふざけんな」と皆で殴りかかったが、今なら言える。ありがとう変態王。
顔だけはひどく不本意だという感情を出し、心内は浮かれ半分。緊張半分。
芭蕉さんと○○。芭蕉さんと○○。
ただ一点のみに集中し、素早く引く。頼む、俺にも―――――!!




「なんて言うか」
「さすがに今回は同情しますね」
「同情するなら止めてやってよ!!ああ、オレの夢が…」
「大王、いい加減すねるの止めてください。うっとおしい」
妹子の姿をたとえ網膜の1細胞にだって移すものかというように、ひたすらに隅で「これは夢だ」を繰り返す閻魔。もともと着せたかった相手はただの1人なのだから、目的の光景が見れる確率は1/7。残りすべてがハズレなわけだ。当たるほうがおかしいのに。
まぁ確かに野郎の生足なんぞ見たいか、と聞かれれば、「女子校生万歳」と間違いなく即答するが。だって、男の子だもの。
鍛えられた肉付きの良い足がさらされている。プリーツから除くニーハイと筋肉の絶妙なアンバランスさが・・・全く笑わざるにはいられない!!
「ぶっ・・・クク、な、何て・・・プ、・・・言うか」
「さすがに今回は同情しますね(笑)」
呼吸困難に陥りそうな鬼男とは対照的にケロリとしている曽良も、顔は不自然に歪んでいる。竹中に至ってはもはや一言も話していない。よほどツボに入ったのだろう。


「こ、れ、は、あ、り、か?」
やたら風通しの良い足元を手で押さえつつ、ゲーム発案者である太子を睨む。一言一言恨みを籠めて。大きな2つの双眸がゆるり、と細められ、口元はひくひくと痙攣し、血管がいたるところに浮き上がっている。完全に怒りをためている証拠だ。
「わ、私に聞くなよ。カードはみんなで書き込んだんだから。犯人はあの中の誰かだ」
「確実にあの人しかいませんよね!?ああああくそう、何でこんなの準備してんですかあのイカ野郎!!用意周到にもほどがあるよ!」
今すぐ殴ります。拳を握り、復讐に燃える姿は勇ましいが、その格好で言ってもいまいち迫力に欠ける。しかし、妹子は本気で標的をロックオンしていた。細身でありながら、空手で鍛えし二の腕は筋肉で引き締まっている。怒り任せにふるう拳は、エアーサンドバック(人型)の急所を確実に突いていた。このまま向かわせると、閻魔の命が危ない。
「芭蕉さん、芭蕉さん!!」
その姿をしげしげと眺めていた、確実に妹子を取り押さえることのできる人物を呼ぶ。
「え、なになに?」
「このままでは、私たちはクラスメートを1人失うことになる。ついては―――」
「あ、止めればいいの? りょーかい」
皆まで言わずに分かってくれるとは。さすが芭蕉さん。
この時太子は気付かなかった。それは明らかなる選択ミスだったことを。

「妹子くんかわいいよ」

ピシャアアアアアアアン

あれ、いまなんと?固まる二人をよそに、芭蕉の口は止まらない。
「肩口で切りそろえられた髪に翻るスカート。引き締まった腰が女の子のように細くて、後ろから見たら思わずナンパしちゃうくらいにかわいいよ。うーん、欲を言えば、髪型のほうにもなにかワンポイント欲しかったかも、閻魔くんにもらってき―――」
「ばっしょさんんんん!!それ以上言っちゃあかんでおま!!」
「あれ、ダメ? えーと、」
この期に及んで口を閉ざさない芭蕉に、妹子がもはや口元のみですら笑うのを止めた。
屈辱に打ち震える妹子に精いっぱいのフォローのつもりで墓穴を掘った芭蕉。先ほど曽良の地雷を完全に阻止したくせに、ここにきて思い切り踏んずけるとは。
爆心地から急いで離れるべし。そう考えた太子は、落ち込んでた閻魔を慰めてくる―。といいつつこの場を離れた。
残されるは2人。ショックが抜けず放心状態の妹子。反応のない彼に対し、もしもーし。とのんきに手を振る芭蕉。
「・・・・・・・・」
ただでさえ一番見られたくない人にセーラー姿をさらした男は、その一言に完全に打ち砕かれた。いろいろと。
がくり、と膝から折れた。絶望しかない。最悪だよ。
「ふふふー」
対する芭蕉は上機嫌だ。これは、もしかしなくとも。
「崩れ落ちた僕を見て、楽しんでます?」
「あっははは」
「いや、否定しろよ!!」
そうだ、そうだった。あなたはそういう人でしたもんね、いーですよ、知ってましたよ。
妹子は完全に拗ねてしまった。芭蕉のほうを見ないように背を向ける。しかし、ぷいとそっぽを向く姿は追い討ちをかけるようだが、可愛らしい。普段しっかり者と認識されている後輩(勿論芭蕉も彼のことは数少ない常識人として高く評価している)が感情に任せた行動をとると、甘えられているのかも、と少し嬉しいのだ。自分にしかとらないことを知ってしまうと特別視してくれているような気がしてしまい、多少のことを「しょうがないな」で受け入れてしまえる。
だって、拒絶することは簡単じゃないか。
そんなわけで、妹子に対してフォローを入れずにはいられないのが芭蕉である。基本、メンバーのフォローに回ることが多いのだが、彼には苦労人という言葉はけして使われない。なぜか。

全力で面白いことを楽しむから、だ。
からかえるときには、全力で。フォローよりも便乗が多いよ、というのは閻魔談。ノリノリで着替えの手伝いを申し出た男。それなのに妹子の鉄拳はけして芭蕉に下されることは無い。その最大の理由は―――


「機嫌直してよー」
「ほっといてください」
「ね〜」
「・・・・・」

 ぎゅ


戻ってきた彼の表情は活き活きしていた。
「さて、次やりますよ!!」
「立ち直り早っ!!」
「すげーな、芭蕉さん。いっつも思うんだけど、どうやってるんです?」
「ないしょー」

要するにそういうわけで。



ここまで来ると、前後の話なんてどうでも良いから罰ゲームだけ見せろ、と思われるかもしれない。
実際には同じ人間が数回負けたりもしたのだが、そう言うわけで割愛させて頂く。



太子の罰ゲーム。
左に座っている人にプロポーズ。
キタ―!!と心の中で叫んだのかは定かではないが、稀にみる早さだったと、後に竹中は語った。
「ま、毎朝芭蕉さんの作るカレーが食べたい!」
「偏食はダメって言ったでしょ!!」
あえなく撃沈。その間わずか0.5秒。
「・・・芭蕉さん、プロポーズなんだけど、分かってるのか?」
もしかして、意味がわかっていなかったんじゃ、と一縷の望みを見出すも、 「出直しておいで」
良い笑顔でお断り。

「馬鹿ですね」
「好き嫌い×。お残し許さじの芭蕉さんにあれは無いよな」
「うし、あれは消えた」
だから君たちはヤツの手のひらで踊らされるんだよ、な後輩組。

「どう思う?」
「あれは間違いなく太子の反応を楽しんでるね」
「だねー。いー顔しちゃって」
「妬ける?」
「そっちがでしょ」
分かってしまうのが、竹中と閻魔。



鬼男の場合。
お題、ポッキーゲーム。
「誰だよ、これ入れたヤツ!!」  男しかいないと知っての暴挙か。当たる確率1/6をなめてんのか。
すでに先ほど太子と当たっていた鬼男は2度目のポッキーにすっかりやさぐれていた。
「あ、これ自分で相手選ぶヤツですよ」
「ほんとか!?」
「ほらここに」
「ほんとだ」
「お?お前が引いたのか」 ひょい、と太子が覗き込む。
「またアンタは変なカード入れやがって……!!どんだけポッキー好きなんだよ!!」
「いや、私が好きなのはカレーで」「聞いてねぇよ!!」
ぎりぎり、と太子の襟元を締め上げる鬼男に、竹中がまぁまぁ、と声をかけた。
「となると、指名する相手がまた重要だね」
「そ、そうか。す、好きなやつでいいんだよな!?」
「ああ、選べよ」
にやにや、と太子が促す。邪魔をする気は無いらしい。他の皆も同じのようだ。明らかに選ばれる人間は決まっているのになぜか。
「・・・・・」
「どうしたの、鬼男くん。早く」
せかす芭蕉に、耳まで真っ赤な鬼男。さきほど「好きなやつを選ぶ」といった自分の言葉により、動けなくなってしまっていたのだ。ここで選ぶ=告白の図式が頭の中に浮かんでいる。
そう、曽良に負けず劣らずこういうことにヘタれている鬼鬼は、皆が見ているところで意中の人をポッキーゲームに誘うことなどできはしないのだ!!

結局、無表情で端をくわえ、開始の合図すらも聞かずにコンマ2で終了させる鬼男と太子の姿があった。(公平なるじゃんけんで負けたため)
一部の人間からは憐みを。そして、一部の人間からは嘲笑を。


夜も更けてきたことで、次が最後と引かれたカード。
だが。
「あれ、何も書いてないじゃん」
引いた本人の閻魔は首を傾ける。これでは何をすればいいのか分からない。
「予備の奴か?」
「引きなおします?」
鬼男がカードを差し出す。しかし、閻魔は断った。にこにこと笑みを浮かべ、とんでもないことを言い出す。
「何も書いてないってことは、オレが好きに指名した相手になにかしてもらっていいんでしょ?」
確かに、これまでのルールではそれが可能だ。カードに忠実に、さえ守ればよいのだから。
「じゃあ、芭蕉さん一緒に寝―――」
「アウトオオオオオオオオ!!」
スパァン!と小気味よい音を立てて閻魔が宙を舞い、落ちた。
「最後の最後にお前はー!!」
「どうやら、命は惜しくないようですね」
「立て、イカ野郎。俺だって本当は指名したいんだよっ」
ゆらり、と背後に具現化するほどの怒りを背負った後輩組。
「あ、曽良はだめだよ」
「そーだ。曽良だけ役得だもんな」
「なっ・・・・!!」
ぼぅ、火がつくように真っ赤になった曽良。しかし耳だけ。芭蕉の前ではなかなか感情をうまく出せなかった曽良の、最近の進歩だ。
「うるさいですよ」
「あれ、曽良くん耳が」
「芭蕉さんには関係ないですから」
「お前、そういう言い方するから進歩ねーんだぞ?」
「・・・・どうやらシメてほしいようですね」
照れた状態で言われてもなぁ。と、からかう二人を追って、3人は2階へと降りて行った。
その様子を見ていた太子はいいなぁ、と呟いた。 「あーあ、うらやましいよな」
「私なんてなぁ・・・っ」
「分かる、分かるから今日は何も言うな」
ダメ出しされた上に野郎とポッキーなどという踏んだり蹴ったりな太子は、同じく本日貧乏くじの閻魔と一緒に散歩してくる、と上着をはおり、出て行った。

「みんな行っちゃった」
「そうだな」
残る2人で散らばったカードをかき集める。後始末は大抵この2人の仕事になるのだ。
静けさに満ちた部屋に、紙がこすれる音だけが響く。
そういえば、と芭蕉は隣の竹中に礼を言った。
「曽良くんを助けてくれたでしょ、ありがとうね」
すぐには意味が分からなかったが、すぐに思い当たることがあった。罰ゲームの最初、自分の言葉を発端に皆の注意をそらしたことを言っているのだろう、と思い当った。まさか気づかれてるとは。しかし、あれは。
「彼を助けたわけじゃない」
そう、あれは自分のためだ。少しでも早く、終わらせてほしかった。
ただ、それだけ。
「そう? でもいいよ。おかげで早く終わったし」
ありがとうね。満面の笑みで言われては、悪い気はしない。本当の意図するところは伝わってないけれど、それは別にかまわないのだ。ふ、と柔和な笑みを浮かべる。
「では、ありがたく受け取っておこう」










そ、総受けかつ芭攻めもちらほら入れてみたり。全員と絡ませようと思ったら無駄に長くなってしまいました;
(全員が罰ゲームしてたら終わらなくなってきたので、いくつか話を切りました。お好きなキャラの出番が少なかったらすみません)
やたら芭蕉さんが電波になってしまった気がします。
ああ、松尾芭蕉よどこへ行く。

千晶さま、このような感じのものでよろしければもらってやってくださいv
愛ある苦情はメルフォにてお受けいたします。

*この作品はフリー配布ではありません。